メーカーの管理会計業務の内容を実務担当者として赤裸々につづりました
「管理会計」は社内向けの会計報告だと一般的には言われています。
でも、就活とか、転職を考えたときに、「管理会計の仕事」と言われても、何だかピンと来ないですよね。
僕は現在、管理会計の業務に従事しています。
この記事は、管理会計に興味がある人や
「実際何やってんの?」と思う人向けに書きました。
そもそも管理会計とは?
企業会計は、管理会計の領域と制度会計の領域にわけることができます。
管理会計は、会計情報を、経営層や意思決定者に対して報告し、事業運営に役立てることを目的としています。
社内向けの会計報告です。
制度会計は、社外向けに会計情報を開示することを目的としています。投資家とか向けですね。こちらはオフィシャルな数値なので、会計士に監査されますね。
管理会計担当者は、その性質上、事業戦略や事業運営と関わりが深くなります。
では、管理会計担当者は実際には何をしてるのでしょうか?
メーカー管理会計担当者の業務領域
1.予算実績差異分析
月次で行う業務としては、予算と実績の差異分析を行うことが挙げられます。
予算策定時に想定していたことと、現実とのギャップを把握することで、
経営者は次の一手を打つことができます。
担当者としては、様々なKPIをチェックし、
予算となぜ乖離があるのかを把握して簡単なレポートを作成することが業務としてあります。
KPIとは、業績指標のことです。
売上、営業利益、在庫、固定費、原料費推移、投入原料価格、為替、販売量、生産量、単位あたり平均販売価格・製造原価etc...
メーカーは管理すべき指標が非常に多いです。
在庫もない、大型の設備投資もない、といった会社もあると思うので、
それに比べると管理項目は多いですね。
数値同士を計算して算出するようなKPIもあります。
売上高営業利益率 = 営業利益 ÷ 売上
在庫回転率 = 年間売上 ÷ 平均在庫金額
などです。
在庫回転率は当社では使用していませんが、「年間」を「上期」「下期」で分けたり、会社によって色々できそうです。
これに加え、利益であれば、販売数量差異、販売価格差異あるいは、
操業度差異などというように、販売量や生産量を使用して、
差異による金額を算出することもあります。
この分析を行うことによって、例えば、販売量の差がどれだけ金額的に影響を与えているか、など、金額的なインパクトを算出することができます。
差異分析をして、報告資料を作成する際には、
全社的な指示や方針に対して、どれだけアクションしたか
ということが重視されます。
販売量を増やしていく方針であれば、
販売量に関する報告をあげる必要があるでしょうし、
高付加価値化を推進する方針であれば、
全体の販売数量のどれくらいの割合が付加価値品であったか
報告する必要があるかもしれません。
このように、管理会計担当者は、短い報告の中に、
事業の実体と全社方針との差異を記載する必要があります。
何のKPIを重視するかは、会社や事業環境の変化によってかわります。
よって報告の仕方もこれに伴って変化することになります。
この辺りがAIには難しい部分であると思います。
2.生産計画
営業、生産、技術など、社内の様々な人間とやりとりして、
生産量を決定します。営業側と工場側との調整役ですね。
基本的には、生産量を増加させると、単位あたり製造原価は安くなります。
しかし、製品をつくりすぎて在庫のまま眠らせておくのは良くないことです。
在庫として製品を眠らせておくのは、本来であれば設備投資などに回せたお金を、売ること以外は何にも使えない在庫の状態にしたまま置いておくということなのです。
よって、管理会計担当者は
営業が売る分だけを工場に生産してもらうことが大切です。
多くの営業の人と話をして、工場と合意を得なければなりません。
実はこれ、なかなか難しくて、工場は、営業に言われたらその分製品をつくらなければなりませんが、他製品とのバランスや修繕・定期点検・予算との兼ね合いもある上に、売れなくて在庫として保持していると、フォローされてしまいます。
「つくりすぎだぞ」と。
しかし工場からすると、
「いやそれは営業が売るって言ったからですわ!!」
となるわけです。
この調整はなかなか難しいです。
まあ、ベテランになると営業がつくりたいといってきても
しっかりと説明できなければ簡単には応じないということも
できるようになりますけどね。
また、人によっては、標準原価の策定もします。
標準原価とは、簡単に言うと、原価の目標値です。
標準原価も生産量をどう考えるかによって、金額が大きく変わるので、メーカーでは生産計画は非常に大事な業務になります。
3.予算・中期経営計画作成
予算損益計算書・貸借対照表・キャッシュフロー計算書といった、
財務諸表の作成だけでなく、
予算販売量・販売価格・生産量・在庫金額、各種KPIなど
に対しても予算を設定します。
管理会計担当者としては、
事業方針が数字に表れているか、
整合性がとれているか、
などの内容の精査が必要です。
例えば、
「足元では原料価格が上昇しているため、来年度は製品値上げを徹底する」
という方針があったときに、
営業や関係会社が提出してくる数値データは、
販売価格が上昇していなければおかしいですよね。
値上げするんですから。
よって、予算売上高を予算販売量で割った数値(=平均販売価格)は
昨年度よりも上昇しているはずですが、
実際に数値を確認してみると、価格が下がっていたりするのです。
そんな簡単なことなのにほんとにあるの?
と思うかもしれませんが、実際結構あります。
予算をはじめとした経営計画の策定は、策定のために、厳密にスケジュールが決まっていることが多く、営業や工場の方々も、すべての数値データを確認することは実は難しかったりします。
前述の例でいくと、実際には、価格の低い定番品種の数量の増加も多いため、
高価格帯製品群では値上げを図っているものの、
平均すると、販売価格は前年より上がらない、
といったこともあります。
この辺りを、きちんと説明出来れば良いのですが、
「経営方針」と「数字」が一致していないことは、往々にしてあります。
工場間で設備を移管するときに、
減価償却費はそれ想定した数値(移管する側では償却費がその分減少し、移管される側では償却費が増加する)になっているか?
設備投資や固定費は全社的な方針に沿った数字となっているか?
原料価格や為替の変動、労務費の上昇率等の前提条件をどうみているか?
など、管理会計には様々な切り口があります。
これらは、基本的に社外には数値として開示されません。
また、1つの製品を1つの工場でつくるだけなら良いですが、実際には様々な製品を、別々の工場でつくることが多いため、関係者間で、事業環境の認識が一致しているかどうかという問題もあります。
製品Xを売っている関係会社Aと関係会社Bがあったとします。
A社は「X製品に関する事業環境は厳しく需要は縮小傾向」と言ってるのに、B社がX製品の販売量を増やす予算を提出してきたら、おかしいですよね?
この辺りの調整も管理会計担当者の仕事となります。
4.プロジェクト対応
管理会計担当者は、社内で並行して実行されている様々なプロジェクトにも対応しなければなりません。
内部利益率計算、損益分岐点計算、最適セールス・ミックスetc…
会社で何かを始めるときは、必ず数字的な裏付けが必要となります。数字がないと誰も納得してくれないからです。
計算自体は難しくないです。
社内で公式が決まっていたり、Excelで自動計算できたりもするので。
大変なのは、プロジェクトに関する議論を
どういう方向でコントロールするか
落としどころをどこにもってくるか
なについても考える必要があることです。
プロジェクトにもなると、関係者が複数存在していることが普通です。営業、生産、技術の人たちなどですね。
だいたいこのようなプロジェクトものは
「現状認識」から話が始まることが多いです。
そうすると、管理会計担当者は、
事業に関する過去の数字の集計やデータ収集を任されます。
事業戦略には様々な切り口があります。
会社ごと、工場ごと、得意先別、製品別…
合計した数字は一緒でも、
その内訳をどう見せるかは、プロジェクトによって異なります。
これも、最初から決まっていればよいですが、
中には現状分析のやり方は丸投げみたいなこともあります。
(当社では、だいたい主犯は経営企画の部署です。)
「現状分析」をしたあとは、プロジェクトをしたことによって、何がどう変化するのかを数字に表現する必要があります。
「将来の展望」みたいな部分です。
現状分析については、過去の実績数値があって、それは動かないものですが、
「将来」のことは、実際には誰にもわからないため、
この数字に説得力を持たせるのは、場合によってはなかなか難しいこともあります。
そうしたときに、事業をどう切り分けるのか、ということに立ち返ることもあります。
このあたりのコントロールも、
管理会計担当者の業務領域になってきます。
管理会計担当者のメリット
管理会計担当者は、会社の事業戦略や事業環境、事業の考え方などの情報にいち早く「触れる」ことができます。
例えば営業担当者であれば、自分の製品の需要や動向には詳しいでしょうが、全社的な方針や考え方を知る機会は少ないと思います。
制度会計の担当者であれば、会計的なこと、例えば仕訳の方法や、会計基準の動向などには詳しくても、各事業の事業環境についてはほとんど何も知らない、といったことはよくあります。
人事部や総務部などといったスタッフ部署も、この傾向があると思います。
管理会計担当者は、
事業環境を数字に落とし込む必要があるため、必然的に、事業運営には詳しくなります。
営業や技術、管理会計担当以外の管理スタッフなど、会社全体の方針や事業運営に関わってくるのは、彼らが管理職になってから、ということが多いのではないでしょうか。
管理会計担当者のデメリット
正直なところ、裁量がないうちは事業方針に「影響を与える」のは相当難しいです。
これまで、管理会計担当者は事業方針に「触れる」機会は多く、それがメリットでもあるということを書いてきました。
ただ、「触れる」のと「影響を与える」は全く別物です。
当社では、管理会計周りの部署は、
「理想と現実とのギャップが大きい部署」であると揶揄されることもあります。
特に若いうちは、就活で少なからず意識高い系へとなっていることもありますので、管理会計の部署に行きたいという若手も、当社では少なくないです。何度も繰り返している通り、管理会計の部隊は、会社の事業戦略に携わることができるためです。
ところが、実際に入ってみると、担当者レベルでは、関係者との調整や、資料作りなどの方が圧倒的に多く、事業方針や事業環境をほかの人よりもいち早く知ることができる一方で、ポジションによっては、「自分には何もできない」と無力感を感じてしまうこともあり得ます。
うまく調整できないと、文句も言われます。笑
決定権がないうちは、なかなか面白さを見出せないこともあるのではないでしょうか。
制度会計畑を歩んできた先輩には、
「管理会計の部署には(裁量のある)管理職になってから行ったほうがいい」
と断言する人もいます。
一方で、管理会計の領域で下働きをしている僕としては、制度会計ばかりしていると事業の考え方や切り口を知る機会もないため、その状態で裁量を与えられてもなかなか判断は難しい気はします。
実際、僕も工場経理をしていたときは、制度会計寄りの業務が多かったのですが、
会社全体の事業戦略などについて、実のところあまり興味がなく、
(というかそれを知る機会がほぼなかった)
今の部署に来てから自分の無知さを痛感しています。
この辺りは一長一短といったところでしょうか。
まとめ
メーカーの管理会計の中身は会社によって大きく異なると思いますが、
期待されている役割は、大体一緒なのではないでしょうか?
調整役としての立ち回りが必要になってくると思います。
管理職になって裁量が与えられると、また違った景色がみえるのかもしれませんね!
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