日商簿記1級合格までの道のりとその勉強法について
日商簿記1級は、日商簿記2級の上位に位置する資格です。試験科目は商業簿記、会計学、工業簿記、原価計算の4科目から構成されます。
この簿記1級ですが、試験範囲が広く、合格までにかなりの時間がかかります。一般的には800~1200時間くらいなのでしょうか。
僕は、第152回試験で運良く合格することができましたが、勉強開始から2年と3ヶ月が経過していました。
ここでは、簿記1級試験合格までの経緯と最短ルートの合格方法を自分なりに考察します。
簿記1級合格までの道のり
簿記1級受験の目的
僕が簿記1級を志したのは簿記2級を取得できたこともありますが、職種が経理であることが大きいです。
社会人1年目の11月に2級を取得しました。
2級は5月くらいから勉強を始めたので約半年間の勉強で済みました。
大学で簿記の授業を取っていたことと、当時の2級試験の難易度が現在よりも低かったこともあり、比較的すんなりと合格できました。
(なお、現在の日商簿記2級は試験範囲が拡大し、難易度が相当上がっていますので、ご注意ください。僕が受験した時は連結会計などが2級の範囲ではありませんでした。そういう意味では運が良かったですし、これから受験される方々とは単純比較ができません。)
2級は取得できたものの、経理でなくても簿記2級くらいは取得している人も少なくありません。
これからの時代、食っていくためには経理としても他の人と差別化を図る必要があると個人的には考えていましたので、2級合格後、すぐに簿記1級の勉強を開始しました。
簿記1級合格までの勉強時間
勉強時間を記録していたため、以下に示します。
合計1344時間です。
①1回目受験期
当時僻地工場にいた僕は、通信講座での勉強を選択しました。受講料が大手スクールと比較して安いのと、そもそも僻地なので、スクールに通えない、といった事情があり、そうしました。
受講したのは「柴山式簿記1級対策講座」です。
テキストとDVDが送付されてくるので、それを見ながら勉強しました。
「柴山式簿記」の趣旨は、要点を絞ったテキストと解説で、超短時間でインプットを完了してアウトプット(問題演習)の時間を多くとるというものです。
メールで質問をすることもできるので、通信講座だから理解できない、ということはないと思います。
500時間の勉強で合格できる、という触れ込みだったため、その通りに行動して500時間以上勉強しました。笑
しかし、結果は不合格。
思うに500時間で基礎問題の刷り込みと過去問演習を完璧にこなすのは無理な気が…
とはいえ、そこは自分の実力不足と考え、結果発表後に再度勉強を開始しました。
原価計算では20点/25点を獲得し、落ちはしたもののこの頃はそれなりに手応えがありました。
ちなみに、一回目の受験を終えた後の記事が以下になります。
②2回目受験期
1回目の受験の時も、もともと一発で合格したら相当ラッキーくらいには思っていましたが、受験(11月)を終えた12月以降、予算業務で忙しくなってしまい残業が増えたのと、直前期に月に130時間程の勉強をしたお陰でその反動も大きく、何もやる気が起きない時期がしばらく続きました。
予算業務が一段落した2月から、勉強を再開しました。柴山式簿記の触れ込み通り、インプットの時間はかなり短く済んだので、基本的には過去問演習を中心に勉強していましたが、ここで事件が起きます。
4月末に異動の内示があり、これでやっと東京に帰れると思っていた私ですが、なんと、蓋を開けてみれば、結果は希望とは全く異なる部門・配属地でした。
ここで私のモチベーションが0になりました。。。
最初は工場配属があることは知っていましたし、そのことには納得していましたが、その次は納得できませんでした。異動希望が叶う人と叶わない人の心理的な差って本当に大きいと思います。配置理由も説明を求めましたが曖昧であり、納得できませんでした。
そして、6月の受験を控えながら、5月の勉強時間が「0」になります。
直前期なのに。笑
この時期は本当に何もやる気が起きず、試験当日も、確か受験票を忘れました。2回目の受験の結果は悲惨なものとなりました。1回目の受験よりも点数低かったです。40点台前半くらい。
③3回目受験期
この時点で1年程の勉強をしていましたが、経理であることもあり、簿記1級の勉強が経理実務に役に立つことがあることも肌感覚でわかってきました。
異動した直後、このまま過去問を中心とした演習を続けても良かったのですが、試験範囲の中で理解しきれていない分野も少なからずあり、改めて純粋に勉強し直したいと思った時期でもありました。
よく言われることですが、簿記1級の試験に合格するためには「暗記型」の勉強ではなく、「理解型」の勉強が必要です。
そして、理解していないと、結局実務では使えないのです。
そうしたこともあり、大手スクールであるTACに通い始めました。
一度1級講義を受けた人達用に、演習と頻出論点を中心とした講義をしてくれる講座があり、これを選択しました。通信講座でインプットはある程度行っていたので、初学者用の講座を取る必要はないと判断しました。
今思うと大手スクールの講座に参加して本当に良かったと思います。
解説や配布される問題が良質であることもありますが、何より周りで自分と同じように頑張る社会人の皆さんの存在を感じることができました。
この講座では、平日のどこか1日で本番さながらの問題演習の時間があることに加え、日曜は要点解説があったため、この復習に加え、過去問演習を行いました。
直前期はTACの答練(本番さながらの予想問題を時間を図って解く)にも参加しました。
流石は大手スクールといったとこでしょうか、このおかげで理解度はかなり向上しました。論点ごとの解法も身につけ、得点力は向上したと思います。
実際、試験直前の模試でもA判定を取ることができました。
「このままいけば合格できるぞ…!!」
そう思いました。
しかし、3回目の受験も失敗に終わります。
本番では、原価計算で問題文を勘違いして解釈し、ほとんど点数が取れませんでした。
これに加え、対策の甘い分野(具体的に言うと「予算編成」が久々の出題でした)が出題されたこともあり、厳しい戦いとなってしまいました。
工業簿記も計算量が多く、取らなければならない原価計算が明らかにとれていないという焦りから、こちらもミスをしてしまいました。
得点は以下の通りです。(第150回の簿記1級試験です。)
商業簿記 15
会計学 11
工業簿記 18
原価計算 7
(合計51)
原価計算酷いっすね笑 普通に足切りです。第1回目の受験の時には原価計算だけは20点以上の得点ができていたのに、こういうのは簿記1級の怖さだと思います。
工業簿記は18点と、点数自体は悪くないですが、これは相当傾斜がかかっていると思います。満点を目指さないといけない内容でした。
会計学は論述問題が久々に出題され、得点が伸びませんでした。
(個人的な見解ですが)会計学は出題論点による運の要素も強いため、今後の対策としては、商業簿記でケアレスミスをなくし、工原で、より基本的な問題を重視した対策をしようと決めました。
④4回目受験期
4回目の受験は、答練だけ受けられる講座を受講しました。既にTACで講座を受講していたこともあり、割引がききました。受講料は2~3万円程で済みました。
過去問演習と3回目受験期に受講した講座で配布された演習問題に加え、穴をつくらないために、基本テキストの例題を重視した学習をしました。
平日に1~2時間くらい演習し、土日は4~5時間くらいずつ勉強するというサイクルを回し続けました。
休日は、物理的には、より勉強時間を増やすこともできたと思いますが、勉強ばかりしているとそもそも簿記1級自体が嫌になってしまうため、あえて抑えました。集中力も続かないので。
3回目受験期で理解度が向上したこともあり、この時期には実務でも簿記1級の知識を活かした説明ができるようになってきていました。
過去問も、もう何周も回していたため、解いた後に解説を見なくても中身がわかるレベルまできていました。
第1回受験期の頃には、過去問の解説の意味がわからず、何時間も解説とテキストを行ったり来たりしていましたが、ここまでくると、そのような時間はほとんどなく、ひたすら演習を回しました。
また、ケアレスミスは通勤電車の中で確認できるように、スマホにメモをして毎日見るようにしました。
試験直前の模試の判定はB判定でしたが、ケアレスミスさえしなければ合格できるはずだ信じて追い込みをかけました。
そして、迎えた本番の点数がこちらです。(第152回の簿記1級試験です。)
商業簿記 19
会計学 16
工業簿記 16
原価計算 20
(合計71)
ギリギリ…!!!
しかし間違いなく合格でした!!流石にこの時ばかりは相当嬉しかったです笑
簿記1級に合格する勉強法
①社会人勉強の心得
長く付き合う前提で考えたほうが楽
そもそも社会人の勉強の仕方というのは、学生時代のやり方とは少し異なる捉え方をした方が良いのかもしれません。
中3とか、高3の一年間て、それまでと異なって爆発的に勉強しませんでしたか?
特に高校・大学受験等はそうなりがちですよね。
もちろん賛否はあると思いますが、学生の受験はそれでいいと思うんです。浪人しない限り、一発しかチャンスはありませんから。(僕は浪人しましたが。笑)
僕の今回の反省は、①第1回受験期の後に完全に燃え尽きてしまったことです。仕事をした上で、130時間/月の勉強って、尋常じゃないです。
グラフ再掲します。
130時間/月勉強して、これでダメだった時の反動はかなり大きいんですよね。
もうほんとにやる気起きないというか。
でも実際、簿記1級の試験自体は、究極的には何回でも受けることができるわけです。受験とは違います。
だから、やるべきことを感情的になり過ぎずに淡々とこなすというのが大事なのかなと思います。
あまりに短期間で合格したい想いが強すぎると、問題演習でさえ、その結果に一喜一憂してしまいますが、ある程度長く付き合っていく前提で勉強していると、意外と冷静にやるべきことをこなしていくことができると思います。
実際③~④期は①と比較しても勉強時間はそこまで多くないですが、感覚としては安定して勉強に取り組むことができました。何というか、勉強が習慣化されて、勉強することに対して何も感じないというか…(ロボットみたいですね…笑)
学習初期である①の期間から②にかけて、間があいてしまったことで、せっかく①の期間に詰め込んだ記憶が定着せず、二の足を踏んでしまった感は否めません。
この時期の勉強時間を間を空けずに平準化できていれば、3回目くらいで合格できたんじゃないかな~と反省しています。
仕事やプライベートで勉強どころではないこともある
理想の勉強計画を立てたとしても、急に仕事が忙しくなったり、プライベート がうまくいかなかったり等、人生とは予測のつかないものです。
前述したように、僕も予期せぬモチベーションダウンを経験しましたし、職場のいさかいに巻き込まれたりしたこともありました。
社会人は、学生時代と比較して、安定して勉強時間を確保することが、圧倒的に難しいです。よって、不測の事態もあることを肝に銘じ、何かあった時には、臨機応変に計画を修正するということも大事かと思います。焦って当初の計画通りに勉強を進めようとすると、仕事もプライベートも総崩れになる可能性があります。
簿記一級は、一般的には800時間~1200時間と言われているようですが、実際、僕は1300時間以上かかりました。人との対比はアテになりません。自分のペースで継続して取り組み続けるのが大事だと思います。
ちなみに、僕はTACの答練には2回参加(前述③期と④期)しましたが、多分、簿記一級って、途中であきらめてしまう人が多いです。合格率10%程度の試験ですから、答練を受けてた人も、ほどんどが不合格なはずなんです。
もし、一回目の受験が不合格であっても、合格をあきらめていなかったら、その次の回の答練だけは受講してくると思います。割引もきいてお得なので。(もちろん、全員ではないでしょうが)
しかし、私の感覚では、1回目の答練と2回目の答練ではほとんど受講メンバーが被りませんでした。2割くらいでしょうか…。よって残りの8割は、1回目で合格したか、合格を諦めたか、のどちらかということになります。繰り返しますが、簿記1級の合格率は10%程度ですので、合格した人よりも、諦めた人の数のほうが多いことは間違いないと思います。
モチベーションが続かなかったり、不測の事態の発生などがあって、やめたくなる気持ちはわかりますが、合格するためには継続するしか方法はありません。
SNSの活用
SNSはうまく活用した方が良いと思います。
例えば、Twitterを使うことによって、自分の他に頑張る人がいることを感じることができます。会社の人で、現在進行形で簿記1級を勉強している人は僕の知り合いにはいませんでしたが、Twitterの世界には同じ志をもって勉強に励む人がいました。
同じような理由でスタディプラス(スマホアプリあります)も使えます。僕も途中から使っていました。
3回目受験期で、3回目の不合格を僕が目にした時、Twitterでは、それとは裏腹に、やはり合格報告されているアカウントも少なくありませんでした。しかし、その多くの方々が、前回試験で惜しくも敗れ、勉強を継続した人達でした。
60点台後半で不合格となり、それでも勉強を続け、合格を勝ち取った方も中にはいました。
でも、簿記1級ってそういう世界です。
その層と本気で戦わないといけない世界なんです。
たかだか40~50点台で落ち込んでる自分なんかとは次元が違うと思いました。2年、3年選手、平気でいます。
でも、そういう2~3年越えの人たちが多いと感じることができからこそ、4回目まで心が折れずに受験できました。SNSはやり過ぎは禁物ですが、うまく使えばモチベーションの維持に利用できると思います。
②大手スクールか通信講座か
僕は最初、通信講座を受講しましたが、近くに大手スクールがあるならそちらをおすすめします。
まず、問題の質が良いです。
大手スクールならではの過去問研究力は、やはり侮れません。
その問題を解けば、類似論点はすべて復習できる、という問題を平気でつくってきます。
また、簿記1級の過去問の中でも難易度の高いものは、基本テキストだけやっていても、解けません。
特に、連結、企業結合、株式交換のあたりは、過去問で頻出する割には、解説だけ読んでもチンプンカンプンでした。笑
最新の過去問も分析し、それがある程度解けるように解説をしてくれるのは大手スクールの良さだと思います。
さらに、大手スクールの良さとして、自分と同じように勉強に取り組む人を身近に感じられるということも挙げられます。
個人差があると思いますが、通信講座だとなかなかモチベーションを保つのが難しい気もします。
③テキストと過去問のバランス
過去問はやった方が良いですが、誰も予想しなかった分野から出題されることが少なくないのも簿記1級の怖さです。
「何十年ぶりの出題」
簿記1級では普通にあります。
出題者は相当性格が悪いです。
僕は、過去問は10年分はカバーしてましたが、それより前となると、なかなか手はつけていませんでした。
3回目の受験は、過去問に比重を置き過ぎて失敗しました。必ず満遍なく基本例題をやるようにしましょう。
模試等の問題は良質でよいのですが、それにこだわり過ぎて基本例題を疎かにすると足元を掬われます。
僕が使用したテキストは以下の3種です。
1.過去問題集(TAC)
言わずと知れた過去問題集です。解説が詳しいです。
時間を図って本番形式で過去問に取り組むときに使いました。
2.日商簿記1級 誰でも解ける過去問題集(ネットスクール)
テーマ別に解けるようになっています。
商会については10回以上解いた問題もあります。
スキマ時間でも取り組める構成になっているので、苦手潰しに最適です。
3.合格テキスト(TAC)
結局このシリーズの解説が一番しっくりきたかなぁと…。
基礎力をつけるためにこちらのテキストの例題を直前まで解いていました。
なお、4回受験すると身をもって体感しますが、簿記1級の本番の試験はかなりの得点調整(しかも、大抵プラスサイド)が行われます。よって、基本問題さえミスなくできれば必ず合格できます。これは、断言できます。
過去問(TACの過去問題集)も、10年分解きましたが、3~8周ほどです。
バラツキがあるのは、特殊な出題や、難易度の高い問題はそこまで繰り返していないからです。それよりも、テキストに載っている基本問題に注力すべきです。
過去問はもちろん、時間を測ってやりますが、何回やっても捨て問にせざるを得ない問題が、中にはありました。
よって、結論としては、過去問は当然やるべきですが深追いは禁物で、大事なのは、基本的な問題をミスなく解答すること、ということです。
簿記1級お役立ち情報
最後に、簿記1級合格に役に立つ情報を掲載します。
①退職給付会計ワークシート
退職給付会計はこれをマスターしてください。大手スクールでもこのサイトの解法の説明はありませんでした。一度マスターすれば、退職給付会計を得点源にすることが可能です。超オススメです。
②プロフェッショナル簿記
pro-boki.co
退職給付ワークシート(①)の掲載元です。退職給付だけでなく、個別論点の解説や、過去問の解説もあるため、空いた時間によく読んでいました。大変お世話になりました。
②パブロフ簿記1級理論
会計学の理論問題はこのアプリをやれば十分です。有料ですが、1000円もいかないですし、空き時間にサクサク進められます。
④聞いて覚える「原価計算基準」
原価計算基準を聴きながら通勤します。毎日聞いていると、特に覚えようとしなくとも、穴埋め問題で勝手に単語が思い浮かぶようになってきますよ。工原の理論対策はほぼこれしかしてません。
以下リンク先に記載のドルフィンブラウザを使用する方法でyoutubeをバックグラウンド再生するのがよいと思います。これで移動中にyoutubeをきくことができます。
まとめ
・淡々と勉強に取り組もう。
・継続できるレベルで計画を立てるとよいです(無理は禁物。臨機応変に修正。)
・個人的には大手スクールに通うのがおすすめ。
・過去問と基本問題を満遍なく行うこと。
以上、応援しています!!
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